天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
　泉さんはスクエアフレームの眼鏡を指で押し上げ、やや身を屈めて小声で言う。

「相良くんの女性関係について詳しくはわからない。でもひとつ確かなのは、あのＣＡの子をマンションでは一度も見てない、ってこと」

　目を見張る私に、彼は「頑張ってね」と微笑みかけて体勢を戻した。

　彼女、マンションには来ていないんだ。泉さんが見ていないだけだから断定はできないけれど、来ていたとしても頻繁ではなかったようなのでほっとする。

　というか泉さん、たぶんちょっとだけ楽しんでるよね……？　まったく嫌な感じはしないし、むしろ今の情報はありがたいのだけど、なんとなく。

　彼のいたずらな一面に苦笑いを返していると、コンビニから添田さんが戻ってきた。その手には小さなビンの栄養ドリンクを持っている。

「待たせてすまない」
「さすがの添田さんも肝臓は弱いみたいですね」

　泉さんのツッコミに笑い、少しだけ話をしてからふたりと別れた。短い時間だったけれど、先輩方とのひと時はとても有意義だった。

　しかしひとりになると、先ほど見たツーショットが蘇って頭から離れなくなる。泉さんはああ言っていたけれど、ふたりの様子を見るにまだ過去だと割り切ってはいけないような気もする。

< 116 / 250 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop