天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 でも、すべては人から聞いた話。暁月さん本人の口から聞くまでは、あれこれ考えても無駄だ。とりあえず今夜のことを考えて気を紛らわせよう。

 食材は昨日のうちに買っておいたのでマンションに直帰し、すぐに夕飯を作り始める。結婚のよさを感じられると言えば、まずは美味しい食事が用意されていることだろう。

 暁月さんはあの後デブリーフィングを行って、問題がなければそのまま帰ってくるはず。

 今夜のメニューは前も話していた通り、バーニャカウダや、わさび醤油が効いたチキンソテーなど、和洋折衷なシエラの料理。私は明日も仕事だけれど、ちょっとだけ一緒にお酒を飲もうかな。

 余計なことは考えずてきぱきと調理していた時、玄関が開く音がした。主人の帰りを待っていた犬のようにそちらへ向かうと、勤務後のわずかな気だるさを漂わせた暁月さんが靴を脱いでいた。

「おかえりなさい、暁月さん」
「ただいま」

 家族としての挨拶をして微笑む彼を見ると、なんだか温かい気持ちが湧いてくる。彼も同じなのか、安心したような表情を浮かべている。

「迎えてくれる人がいるっていいね。美味しそうな匂いもするし」
「そうでしょう。ご飯、もうちょっと待っててください」

 思惑通り、少しだけよさを実感してくれたかな。

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