天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

　直後、後ろからすっぽりと抱きしめられて心臓が飛び上がる。

　背中にぴったりとくっついた彼の身体と体温、耳をくすぐる吐息。自分のすべてが包み込まれているみたいで、すごくドキドキするのに安心感がある。

「……あったかい」
「ああ。こうやって抱きしめたことなかったなと思って。キスはしたのに」

　耳元で囁かれる声が脳に直接響くようで、とろけそうになる。

　どうしよう……聞きたい。あの人とはどういう関係なのか。彼女ともこうやって甘い時間を過ごしたのか、愛していたのかって。

「あの、暁月さん」

　今なら勢いで聞けると踏んで振り返ると、綺麗な顔が目前に迫る。彼は穏やかな瞳で私を見つめ、さらりと前髪を揺らして「ん？」と首をかしげた。

　彼と目を合わせた途端に喉が締まり、中途半端に開いた私の口からは考えていたものとは違う言葉が勝手に出てくる。

「え、っと……今日、管制官の泉さんに会いました。私の上司と繋がりがあって。彼もここに住んでるんですね」
「ああ、そういえば教えてなかったな。彼と、俺の先輩パイロットにも近々挨拶しに行こうと思ってる」

　泉さんたちがとても優秀で、プライベートでもよくしてくれているという話に相づちを打ちながら、内心肩を落とした。