天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 こうしていると人並みの夫婦になれたみたいで胸が弾む。例の件についてはまだ聞けていないけれど、今日はせっかくのデートだから単純に楽しもう。

 ファッションビルの中を気ままに歩いている最中、暁月さんに電話がかかってきた。ついでにお手洗いにも寄ってくるというので、その間ひとりで近くのテナントを眺める。

 目に留まったのは、きらびやかなジュエリーショップ。そういえば結婚指輪を買っていないなと思い出し、なんとなく足を向けた。

 ショーケースの中に飾られた、小ぶりなダイヤを中心に優美なカーブを描くリングを見下ろす。エレガントなデザインのそれに惹かれて見入っていると、女性スタッフがにこにこしながら声をかけてくる。

「結婚指輪をお探しですか?」
「いえ、すみません。綺麗だなって見惚れていただけで」
「ありがとうございます。こちらは新作でして、デザインだけでなくつけ心地にもこだわっているんです。普段使いができるようにフォルムも計算されていまして……」

 丁寧に説明してくれるのはありがたいのだけど、買うつもりはないので少々困ってしまう。なにせお値段は私の月給に近いし。

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