天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 城戸さんもジョッキを置いて頷く。

「まあ難しいでしょうね。三千メートル級の山に囲まれていて風向きが予想しにくいし、標高が高いから、エンジンパワーが出にくくて離陸性能も下がるし」
「ロケットスタートする時も多いですよね」

 城戸さんの言う通り、空気が薄い高地では機体を浮き上がらせるための揚力が減少するので、滑走路を長く使う必要がある。松本空港は滑走路が二千メートルしかないので、最初からエンジンをフルパワーにして一気に加速する時も多々あるのだ。

 父のようなマニアにとっては、ロケットスタートはカッコよくて魅力的らしいが、パイロット泣かせではあるかもしれない。

 私のひと言に、城戸さんも懐かしそうに「そうそう」と同意した。

「でもやっぱり難しいのは着陸だろうな。俺がやってた時はILSがついていなかったから、今はまだマシだと思うけど」

 ILSというのは計器着陸装置ともいい、視界不良時にも安全に滑走路上まで誘導する計器進入システムのこと。これが設置されていない頃は、パイロットは目視、かつ手動だけで着陸しなければならなかった。

 そんな時に助けになるのが、私たち情報官の声だ。城戸さんは特に伝達が細やかで、パイロットが少しでも判断しやすくなるよう手助けしている。

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