天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

「いってきます。可愛い奥さん」

　額に軽くキスを落とすと、彼女は身じろぎして「んふふ……」とふにゃりと笑った。その愛らしさに胸がくすぐられて、俺も自然に口元がほころぶ。

　なんの夢を見ているのか。俺との幸せな夢であってほしいと願いながら、後ろ髪を引かれる思いで寝室を出た。

　出勤してからは気持ちを切り替え、安全な運航のことだけ考えて業務にあたる。機長になってしばらくは国内線が主なので、今日も国内を行ったり来たりして夜は神戸にステイする予定だ。

　いつも通り、ペアを組む副操縦士と共にフライトプランを確認したり、飛行機の外部点検をしたりと離陸に向けての準備を入念に行う。乗務員とのブリーフィングで望が同乗するとわかり、なんとなく安心感が増した。

　ゴールデンウィークを過ぎたので客足はそこまで混雑しておらず、コックピットから見える乗客はビジネス関係らしき装いの人が多い。毎回こうして客層を観察し、彼らを無事に送り届けようと気を引きしめている。

　副操縦士はまだ経験の浅い二十七歳の男性だったため操縦は俺が行い、特に問題なくフライトを続けた。

　国内線はあっという間に目的地に着くため、『最近ご結婚されたんですよね？　奥様はどんな方なんですか？』と興味津々に尋ねてくるコーパイをあしらうのも比較的ラクである。