天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 日本各地を飛び、午後七時には最終地点の神戸に着いてデブリーフィングを終えたが、ここで望に『夕飯の後、少し時間ある?』と声をかけられた。

 どことなく表情が強張っていたので気にかかり、コーパイと夕食を済ませた後にステイ先のホテルのテラスで落ち合うことにした。

 日が落ちてもだいぶ暖かくなり、夜風が心地いい。十二階にあるこのルーフトップテラスから港町の夜景を眺めながら望を待つが、まだ来そうな気配はないのでスマホを取り出す。

 画面をスクロールして莉真の番号を表示させ、通話ボタンをタップした。

 これまでもステイ先から時々電話をかけていたが、拓朗よりも俺の存在を意識させるようにするためだった。そうしないと不安だったのだ。莉真の気持ちがまたいつ拓朗に向くかわからなかったから。

 しかし、今はただ恋しくてスマホを耳に当てている。数回コールした後に《もしもし》と聞こえただけで、柄にもなく胸が鳴った。

《フライトお疲れ様でした。どうしたんですか?》
「声が聞きたくなっただけ。君を抱き潰したまま出てきたから」
《だっ……!》

 繰り返そうとして口をつぐみ、もごもごしているのが可愛くてクスクスと笑った。

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