天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 空元気なのも気になったが、特になにかを抱え込んでいるような様子もないので、とりあえず深掘りはしないでおく。もう望も来るだろうし。

「じゃあ、そろそろ切るよ」
《はい。気をつけて飛んできてくださいね。おやすみなさい》
「おやすみ。……愛してる」

 おそらく初めて使う愛の言葉を口にすると、少し照れたような声で《私も》と返ってきた。慣れなくてむず痒くなるが、これも悪くない。

 通話を終了して一分も経たないうちに、フレアスカートを揺らして望がやってきた。俺の隣に立ち、観覧車やポートタワーの灯りを見下ろす。

「相変わらず神戸の夜景も綺麗ね」
「ああ。いつかゆっくり観光したいよ」

 何度も訪れているのに、国内線だとわりとタイトスケジュールなので観光と呼べるほどのんびりはできない。

 今度莉真と一緒にプライベートで来ようとぼんやり思っていると、望は夜風になびくボブの髪を耳にかけて言う。

「機長になるまでずっと走り続けてきたもんね。私は置いていかれないように必死だった」
「置いていかれるどころか、今こうして肩を並べてるだろ」

 望はとても気を回せる女性で、完璧に仕事をこなすし同僚からの信頼も厚い、素晴らしいCAだ。それを伝えるように微笑むと、彼女も口元をほころばせた。

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