天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 しかし、その表情にどことなく影が落ちる。

「私たち皆、親に縛られていたじゃない? 私は親がどっちも裕福な育ちだったからきっちりレールを敷かれていたし、拓ちゃんもお母さんの過保護さにうんざりしてて」

 なんの脈絡もなく始まった懐かしい話。

 彼女の言う通り、お嬢様でもある望は官僚の父親がすべてを決めていたらしく、拓朗はいつまでも愛情過多な母親に悩んでいた。

 俺たちが親しくなったのは、それぞれの窮屈な家庭に不満を持っていたことで仲間意識が生まれたからかもしれない。

「だから、あっくんが『パイロットになる』って言った時、目の前が開けたような気がしたの。自由な空がすごく魅力的に感じて、あっくんにつられてこの世界に飛び込んだ。拓ちゃんも同じよ。『その点では暁月に感謝してる』って」
「あいつが俺に感謝? なんか気味悪い」

 顔を歪めて言うと、望はふふっと笑った。今の言葉が本気ではないことくらいわかっているのだろう。

 拓朗とは子供の頃から遠慮しない間柄で、数えきれないほど衝突もしたが、いくらそっけなくしてもなぜかいつの間にか一緒にいる不思議な関係だった。

 お互い社会人になってからは忙しくて話す機会も減っていたから、莉真と繋がりがあったのは知らなかったが。

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