天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 彼女の忘れられない初恋があいつだったと知ってからはライバル視してばかりだが、心底嫌っているわけではない。

 女たらしな部分に目をつむれば、普通にいいやつだから。母親から逃げようと他の女性たちに走ったのだと思うと、少し同情もするし。

 だから、拓朗も望も同じ世界に行きたいと聞いた時は心強かったし、自分が頑張れたのもふたりがいたから。おかげで今は好きなことをやれて充実しているので、ふたりには俺も感謝している。

 ところが、望は順風満帆というわけでもないらしい。

「実際にCAになってみて、仕事はすごく好きになったし自由を得られたような気もした。でも結局、自分を変えないと幸せにはなれないのよね」

 眉を下げて微笑む彼女は、夜景から俺に目を向ける。

「あっくんはいいほうに変わったのが目に見えてわかるわ。全部、莉真さんのおかげ?」

 その問いかけの答えはすぐに出る。莉真を思い浮かべた今の俺は、きっと昔は絶対しなかった優しい顔になっているんだろう。

「そうだな。あの子に会って、自分の固定観念みたいなものがひっくり返された気がする」

 俺はずっとひとりで自由に生きていくつもりだった。誰かと一生一緒にいる約束なんてできないと思っていたのに、彼女には人生観を百八十度変えられてしまったのだから驚く。

< 170 / 250 >

この作品をシェア

pagetop