天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
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俺がパイロットを目指すようになったのは、自由な空に憧れただけではない。父の本棚の奥にひっそりとしまわれた、いくつかの書籍を見たのがきっかけだ。
母が出ていってから姉と分担して家事をしていた俺は、仕方なく掃除をしていた高校二年の終わり頃に偶然それを発見した。
パイロットになるために必要な知識や採用試験の情報が書かれたもの、操縦のマニュアル、航空無線の解説……。それらを見てすぐに察した。父は、本当はパイロットになりたかったのだと。
父も、自分にそっくりな祖父に厳しくしつけられ、将来は公務員になれと強要されたらしい。祖父は俺が幼い頃に亡くなっているのでほとんど記憶にないが、あの父ですら逆らえなかったのだから相当頑固だったのだろう。
彼が航空局に務めているのは、少しでも空の世界に関わっていたかったからに違いない。俺と姉に空にちなんだ名前をつけたのも。
それくらい夢だったパイロットの仕事。父が諦めたそれに俺がなったら、屈辱を感じるだろうか。
彼に恨みにも似た感情を抱いていた俺は、そんな腹黒い考えからこの道に足を踏み入れた。あの人の手が届かなかった世界へ行き、見られなかった景色を拝んでやろうと。