天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 5000ftはフライトプランに則って今俺たちが飛んでいる高度であり、周囲に航空機がいなくなるよう早急に対処してくれたのだろう。ある程度安全に飛べるとわかり、こちらの気持ちも安定する。

 今、俺たちだけで飛んでいるわけじゃない。管制をしている人々も、協力し合ってなんとかしようと頑張っているのだ。俺が急きょこの便に乗っていることを、莉真は知らないだろうけれど。

「彼女の声が聞こえているなら大丈夫だ。絶対に俺たちを安全に導いてくれる」

 この緊急事態で口元に笑みさえ浮かべる俺を、コーパイはややギョッとした様子で一瞥して言う。

「どうして無条件に信じられるんですか? 今頼りにできるのは彼女しかいませんが、この状況では間違った情報が送られてくることも──」
「ないよ。彼女は、俺が最も尊敬している情報官だから」

 断言すると、不安げにしていた彼の瞳に光が宿ったような気がした。

 話している間も計器を確認し、スラストレバーで速度を調整する。

「天候に関してはテキストメッセージでも手に入れられる。あらゆる情報を集めて対処しよう。無線が復活する可能性もあるから、こちらからも送信し続けて。やるべきことは普段と同じだ」

 表情を引きしめつつも落ち着いて指示を出すと、彼も気合いを入れ直したように背筋を伸ばし「Roger」と返した。

 いつも通り、安全に到着して当然、といった風に乗客が降機していく姿を見るために最善を尽くす。オフィスで見守るもうひとりのパイロットと共に。


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