天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

　信じられない気分になりながらも、笑顔で手を振る彼女に「ありがとう！」とお礼を言ってひとまず出発ロビーへと向かった。

　暁月さん、遊覧フライトだなんてひと言も言っていなかった。しかも、皆と口裏を合わせていたんだよね？　予想外すぎるよ！

　搭乗口からはお馴染みのエメラルドグリーンの機体が見え、パイロットの姿もはっきりとではないが確認できる。ここから見るのは初めてで胸の高鳴りを感じていると、ふと一年前に自分が言った言葉を思い出す。

『恥ずかしながら、私は実際に空からあの地域を見たことがないんです』

　暁月さんはお義父様と初めて対面した時に私がそう言ったのを覚えていて、今日見せようとしてくれているのだろうか。

　彼の粋なサプライズにときめきまくりながら、チャーター機に乗り込む。

　客層は航空ファンらしきおひとり様や家族連れ、熟年カップルまで様々だ。私は窓際の席に座り、松本空港の景色を新鮮な気持ちで眺める。

　機体がゆっくり動き始め、ランプハンドリングの方々に手を振って見送られながら滑走路の端へ向かう。エンジンパワーが上がる音や振動を感じながら、心の中で〝Runway is clear〟と呟いた。