天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 一気に加速して無人の管制塔を通り過ぎ、ふわっと機体が浮き上がる。すっきりと晴れた空へ飛び立ち、爽やかな感動に包まれた。

 空港もシエラもどんどん小さくなり、代わりにそびえるアルプスの山肌が見えてくる。思った以上に山が近くて圧倒されていた時、機内アナウンスが流れる。

『皆様、本日は遊覧フライトにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。機長の相良と申します』

 大好きな彼の声が聞こえてきて、心臓が喜ぶように跳ねた。

 やっぱり暁月さんだった……! 彼が機長を務める飛行機に乗りたいという密かな夢も叶えられ、テンションが上がって口元が緩む。

 今日は普通のフライトとは違うので、アナウンスもイレギュラーだ。

 定期便が通常飛行する高度一万メートルより低い五千メートルで飛ぶことや、要所要所で見所の案内をするという内容が伝えられ、機内には楽しそうな声が上がっていた。

 山梨県の盆地を過ぎ、あっという間に富士山の上空へ到達する。今日はそれほど雲がかかっておらず、五千メートルの近さから見下ろす富士山は圧巻だった。

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