天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 その周囲をゆっくり旋回し、駿河湾を通って再び松本空港へ。次第に山脈が近くなり、その間を縫っていく飛行を体感するのは、緊張と感動でぞくりとするほどだった。

 少しでも逸れたら山肌への衝突不可避なルートだというのは知っていたし、日々得られる情報から想像してパイロットにアドバイスをしていた。こうして実際に自分も飛んでみると、より細やかな支援ができそう。

 そしてなにより、悪天候の日も安全に運航している彼らの腕を本当に尊敬する。

 仕事をする上でもとてもいい経験になった遊覧飛行が終わりに近づき、見慣れた地元の風景が見えてきた時、暁月さんからアナウンスが入る。

『本日は七夕ですね。松本空港は標高が高く、日本一空に近い空港と言われております。一階のロビーには笹の葉が用意されていますので、お帰りになる前に皆様も願い事を書いてみてはいかがでしょうか』

 そうそう笹の葉、懐かしいな。二年前、私も〝優しいコーパイさんが機長昇格試験に合格しますように〟と書いたのを思い出し、ほっこりしていた時……。

『私も、〝最愛の妻が一生幸せでいますように〟と書くつもりです。願うだけじゃなく、私自身も日々努力し続けていきます』

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