天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

　眉根を寄せる彼と、苦笑いするしかない私がぽつんと残される。

「人の話を聞けと」
「完全に勘違いしてましたね……」
「ああ……恋人ならまだしも、結婚すると思われていたよな？　昔から思い込むと厄介な人ではあったけど」

　呆れ気味にぼやく彼に、私も若干責任を感じて軽く頭を下げる。

「すみませんが、後で誤解を解いておいてください。もしかしたら他の航空関係者に見られる可能性もあるし、私帰りますね」

　万が一〝相良機長が地味女と密会してた〟なんて噂にでもなったら、彼の仕事に支障をきたすかもしれない。それは避けたいから、私も早急にこの場を去ろう。

「待って」

　一歩を踏み出したものの、軽く腕を掴まれて引き留められた。振り仰ぐと、なにかを思案している様子の彼がいる。

「誤解を解く必要はないかもしれない」
「え？」

　再び彼と向き合った時、ひとつの航空機がスピードを上げて滑走路を走っていく。それが飛び立つ頃、真剣な表情になった彼の唇が動く。

「本当にしようか、結婚」

　──飛行機の音が遠ざかって、はっきりと聞こえた。耳を疑うひと言が。