天才パイロットは交際0日の新妻に狡猾な溺愛を刻む
 彼を見上げてそう口にした直後、なんだか恥ずかしくなってそろそろと目線を外した。

 私も〝あなたと恋愛がしたい〟と言っているようなものだもんね。相良さんはどんな反応をするのか……。

「いいね。賛成」

 肯定的な声が聞こえてきて、私の表情がぱっと明るくなる。

「確かに、なんの努力もせず幸せな家庭は作れないよな。君が言ったみたいに父を見返してやるためにも、俺もできる限り君に尽くすよ」

 快く同意してくれた相良さんは、おもむろに私の左手を取る。そしてエスコートするように持ち上げ、薬指にキスを落とした。

 まるで、婚約指輪を嵌める代わりのごとく。

「それでいつか、俺を好きにさせてみせる。あいつとは比べものにならないほど」

 甘い声を紡ぎ、上目遣いで私を見る彼の瞳は蠱惑的な色を湛えていて、胸が早鐘を打つ。

 私は城戸さんを吹っ切るためだけじゃなく、幸せになるために結婚するのだ。相良さんも目指すところは同じ。それを再確認して意を決し、温かい手をきゅっと握り返す。

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