天才パイロットは交際０日の新妻に狡猾な溺愛を刻む

　彼は当時を思い起こすようにまつ毛を伏せ、口元に覇気のない笑みを浮かべた。それがとても悲しげで、胸が苦しくなる。

「俺たちに対しても同じだったよ。進路についてもあれこれ口出されたし、門限やバイトも制限されてとにかく窮屈だった。仕事人間のあの人は母がいなきゃ家事はてんでダメで、俺と姉さんとで協力してやっていた。だから、父に育てられたって感覚はあまりない」

　暗い声色で語られる内容に耳を傾け、私だったら耐えられなかっただろうなと同情してしまいつつ、ふと思う。

「暁月さんがパイロットになったのは、自由な空に憧れたから、ですか？」

　縛られる生活から抜け出したくて、世界中のどこへでも行ける仕事を選んだのではないか。勝手に想像して問いかけてみると、彼は目をしばたたかせる。

「君はすごいね。どうして俺のことがそんなにわかるんだ」

　どうやら当たりだったらしいので、得意げに笑った。

　しかし、暁月さんは微笑みにやや影を落とし、「まあ、理由はそれだけじゃないが」と呟いた。気になったものの、すぐに彼の口調が明るさを取り戻したので意識が逸れていく。