可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
石造りの牢獄小部屋でも、ベアトリスは最大限に美しく自分を保つ努力をした。


金色に波うった艶やかな髪をとかし、人間国から持って来た品のある軽装に着替えて身支度を整える。



豪華な化粧品や華美な装飾品やドレスがなくても、

美しくあることはベアトリスの誇りだ。



どんな時でも「可愛くてごめんあそばせ!」の啖呵を切る準備を怠らない。


ベアトリスはおじい様直伝の強く生きろ!を実現するために、知識でマウントをとられないように誰より勉学に励み、美しさをも磨いてきた。


だがその賢く美しく見せようと努力する姿が、逆に妬みの対象になることも多かった。



身支度を終え、肩から下げる大きな布袋を持ったベアトリスはアイニャをその中に入れた。アイニャが袋からちょこんと顔を覗かせるのが可愛くて可愛くて顔が緩む。


「いつでも一緒ですにゃん」


ベアトリスは石造りの牢獄小部屋から一歩踏み出して、まず食べ物を探すことにした。


「アイニャのご飯を、手に入れましょう」


魔王様のために泣くという生贄姫の役目を放棄するベアトリスに、誰も優しくしてくれるはずもない。


うさ耳メイドのエリアーナは文句を言いに来たきり、服の用意どころか、食事の用意も、お風呂の用意も、何もしない。


華麗なる放置だ。



(まあ、生贄姫の扱いなどそんなものだろうと思ってましたわ)



へこたれないベアトリスはアイニャの食べ物を得るために、キッチンを探し始めた。

   
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