可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

「うちは昨日ちゃんとここに置いたわ!」

「お前のちゃんと、がここにあった試しねぇわ!アホエリアーナが!」

「アホって言う方がアホなんですぅ!」


サイラスが黄緑色の目でにっこり弧を描いてパチンパチンと指を鳴らす。手がかかる子代表のエリアーナと言いあっていた馬顔の男だけが壁に貼りついた。


「サイラス様ぁ!悪いのは絶対エリアーナですよぉ?!」


馬顔男が理不尽な裁きに抗議する。だが、子どもの顔したサイラスはお耳が都合よく遠くなるご老体だ。


「エリアーナおいで、ジュースをあげよう」

「わーい!先生ありがとう!」


にこにこのサイラスはエリアーナの手を引いて連れていく。目の前の状況を鮮やかに処理しつつも、サイラスの頭は回り続ける。


(おそらく、あの細胞は魔国の王妃としてよく働くだろう。資質は悪くない。



だが、本当の問題は……)



ベアトリスの抱える問題は執務能力ではなく、アホ魔族に受け入れられるかどうかだ。魔族は極めてシンプル。強いものに従うのだ。



弱い王妃には、誰も従わない。



弱い王妃を認めたなら、魔王にも不信感が募り、魔王さえも弱くなったのではと疑い出す。


脳筋の魔国民は後先考えず、すぐに暴動を起こすだろう。


脳筋魔国民は力だけは強く、数は多い。束になってアホ魔国民が暴れれば、もう言葉は通じず魔王側も力で一掃するしかなくなる。



弱い王妃など認めれば、

魔国「内戦」崩壊まで一直線。



強い魔王と王妃は、この魔国の秩序だ。


(細胞は、弱い。この問題をどうする気だジン)

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