可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「か、噛みつく?」
「冗談だよ。私は野生型じゃない」
きょとんとするベアトリスを抱き直して、ジンはベアトリスの鼻先に鼻先を近づけた。
今にもくっついて奪いたい薄い唇を前にして、理性型魔族としての矜持を保つために深い息をする。
「君の唇を齧ってみたいんだ。今まで生きて来て、こんなに早まってしまいそうな自分を知らないよ」
たとえ種族が違えど婚姻が済んでいて、愛を囁いて愛がこみ上げるこの関係にキスは早計ではないとベアトリスは考える。
人間国では出会ったその日に重なり合うものだっているくらいだ。
(唇を齧りたいってことは、魔王様はキスしたいってことよね)
愛する人の願いに全力応えたい。それがベアトリスの愛の示しだ。
ベアトリスはジンの息がかかる距離に口づけを期待して、そっと目蓋を閉じた。
恥ずかしさが極まって目の端からまた涙が零れる。ベアトリスは10代盛りのお年頃だ。
好きな相手にはキスされたくて、王妃となる妻なら当然の行い。ジンの胸元のシャツをきゅっと握ってキスを待つ。
(ベアトリス?!君は、ち、痴女ではないと言ったよね?!)