可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「違います!500歳年下だからって、私を赤ちゃん扱いする魔王様に怒っているのです!人間としてはれっきとした大人ですわ!」
「そうやって自分の事情だけを喚いて押し付けるのが赤ん坊の証拠だ」
サイラスのド正論に、ベアトリスはぐっと唇を噛んだ。たしかにジンが優しいのをいいことに我儘にぷんすこしてしまった。
「赤ん坊をして可愛いのはエリアーナだけと決まっているのを知らないのか、愚弟め」
「知りませんでしたわ」
サイラスがパチンと指を鳴らすとベアトリスの前に手のひらサイズの薄い本が現れた。
「今日はそれを読め。講義は以上だ。質問は明日受け付ける」
「ありがとうございました。サイラス様」
「ジンが不貞腐れて面倒だから、和解するか実家へ帰れ。それも明日までの課題だ」
極端な選択肢しかなかったが、サイラスの捨て台詞に、ベアトリスはジンもケンカを気に病んでくれているのかなと期待してしまった。
「まずは、これを読まなくてはね」
ベアトリスはサイラスが残した本、題名「魔族の性教育」を読み始めた。
作者はなんとサイラス自身だ。サイラスがエリアーナに読み聞かせるために独断と偏見で書いたものだが、ベアトリスはそんなことまで把握できない。
「え、ええ?!」
ベアトリスは読み進めるほどに、己の行為が痴女まがいであったことを知ったのだった。