可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「それは私に直接言って欲しいね」
「ま、魔王様?!」
忽然と背後に現れるのはジンにはよくあることだ。ベアトリスはハッとした。今さらジンのツノに声を拾われていたと気づいたのだ。
「もしかして全部聞いてましたの?!」
「君の声は私のツノに響いて仕方ないからね」
「もう、私ったら恥ずかしいことしかしてませんわ!」
ベアトリスはまた膝を抱えて膝に顔を埋めた。頭上から魔王様のクスクス笑いが降って来る。ジンが隣に座って、ベアトリスの頭を優しく撫でてくれる。
ジンの包容力にベアトリスは目を潤ませて、またぽろっと泣いてしまった。ジンに軽蔑されていたらと思うと気が気でなかった。
あんなに絶対泣かないだなんて豪語していたベアトリスが、恋するとこんなに簡単に泣いてしまう。
「魔王様、私、キスして欲しいのにって怒ったこと反省していますわ」
「異種間の文化の違いだ。私も説明が足りなかったね。君は何も悪くない」
「それでも勝手に怒ったりして、とんだ赤ちゃんでした。怒っていますか?」
ベアトリスが涙顔を上げると、ジンと視線が絡んだ。優し気に顔を緩ませるジンの真っ赤な瞳が細くなる。
「私の幼い妻が可愛過ぎて困っただけだよ。怒りなど最初からまるでない」
「私の魔王様は本当にお優しいのですね」
「優しいのは我が妻にだけだけどね」
ベアトリスが安心して顔をほころばせると、ジンはベアトリスの金色の波髪を一房指に絡めた。