可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ベアトリスはきちんと背筋を伸ばして言い返す。
「生贄姫条約の内容は当然、理解していますわ。人間国から嫁いだ生贄姫の涙が魔王様の寿命を延ばすのでしょう?」
「わかってるなら」
「早く泣きなさい」
「なさい?」
「この」
「ドブスちゃん?」
「ちゃん?」
鼻息荒いイノシシ嬢三人組は、揃ってにこにこ笑った。ベアトリスは真顔で静かな声で、イノシシ嬢三人組が仕掛けて来た口喧嘩に乗った。
正々堂々の口喧嘩ならば、望むところである。こういう場面でしっかり反論できるようになるために、ベアトリスは勉学を惜しまなかった。
女が強く生きるためには賢くないといけない。
「ではこの条約で生贄姫である私の利益は何でしょうか?」
「は?」
「利益?」
「き?」
「魔王様との離婚後。人間国に戻った生贄姫には、魔王様に触れられた異端としてどうしようもない人生しか待っていないのですよ?」
「人間の事情なんて」
「知らないわよ」
「わよ」
「それをおっしゃるならば、私だって魔国の魔王様の寿命の事情など知りません」