可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
あの屈強な身体からは想像しにくいが、フェルゼンはクロコダイル族の中でも優秀な男だ。
優秀さと偏った思想を兼ね備えたものは危険を孕むとサイラスは危惧する。
「フェルゼンは魔王に従う主義だ。大丈夫さ」
ジンは事を起こせば容赦なく対応するが、それまでは基本的に信じる立場をとる。
魔国民は敬愛する魔王様の信頼を裏切らない。
魔王は魔国民を守る。
そのシンプルな関係が魔国の均衡を保っているからだ。
「でもフェルゼンのような主義の者たちにも認めてもらえるように、我が妻に強くなってもらいたいんだよね」
強い王妃でなければ魔国民は受け入れないと予測していたサイラスは、やはりジンもそこを問題視していたことに安堵した。
弱い人間王妃など、魔国内戦勃発の火種でしかない。ジンもサイラスも魔国を治める立場として、もちろん内戦を望まない。
「細胞に強さをな。魔力も腕力もないのにどうやって?さすがに僕でも魔力は与えられない」
「わかってる。私はサイラスから以前受けた報告に、可能性を感じててね」
「報告?」
「ベアトリスを暗闇地獄に封印した時だよ」
サイラスはジンの話を最後まで聞いた。話が終わった時、サイラスの口は珍しく半開きだった。
「お前愛してしまったとか言って、なかなか嫁に厳しいな」
サイラスの感想に、ジンはにんまり笑った。
「私はベアトリスの強さを信じているだけだよ、サイラス。
我が妻は強く、美しく、そしてか弱くて愛しいんだ」
「言っていることが無茶苦茶だ。しかし、ものすごくわかるのが非常に癇に障った」
サイラスにとっても、エリアーナは強く、美しくそしてか弱く愛しい。
それぞれがそれぞれの可愛い子にゾッコンの二人には妙なシンパシーがあった。
二人は見つめ合った。
「わかると言われることが私も癇に障ったよ」
「「は?」」
共感してもしなくても、魔族は恋バナでわかりあおうとしない。