可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
魔王城の廊下のど真ん中で始まったイノシシ嬢vs人間の口喧嘩を、有象無象の魔国民たちが遠巻きに見つめている。
話を理解する者の中には、ベアトリスの主張にそれはそうかもと頷くものもいた。
「魔王様が寿命が延びるなんて素晴らしい利益をもらえるなら、生贄姫が人間国に帰った後の安全を保障して欲しいと訴える権利くらいは、あるのではなくって?」
「帰った後のことなんて」
「知らないわよ」
「わよ」
イノシシ三人娘は三人顔を合わせて「ネー」と頷き合った。ベアトリスは知らないと同じ主張が返って来たことにわざとらしく肩を持ち上げて落胆した。
「お話になりませんわね。
自分の利益だけで相手の立場を考えもしないなんて、
5歳の子どもと同じですわ。
イノシシ嬢様たちは見事に幼稚でいらっしゃる」
「は?私たち200年は」
「生きてるわよ?!」
「わよ?!」
鼻息を荒くするイノシシ嬢三人組に、ベアトリスはさらにわざとらしくイノシシの真似して鼻を鳴らしてあげた。
「それはそれは無駄に息をしただけの200年でしたこと!」
唖然とするイノシシ嬢三人組にくるりと背を向けた。
「あなた方は言葉を使って、ただ品を落としただけですわ。その醜悪な顔を鏡でご覧くださいませ。
それに比べて私の方が若くて、賢くて」
ベアトリスは口喧嘩の勝ちを確信して、おじい様直伝の啖呵を切った。
「可愛くて、ごめんあそばせ?」
ではごきげんようと、アイニャを袋に引っ提げたベアトリスは口喧嘩の周りを囲んだ魔国民の人垣を押しのけて歩いて行った。
「な、なんなの!」
「あの女!」
「な!」
確かに論理としてはベアトリスの主張が強かったが、ひたすら感じが悪いので敵を増やすのであった。