可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「魔王様はかくれんぼもお得意なのですね」
「君がいつどこで何をしているのか、私は全部知っておきたいんだ」
「愛されていると言っていいのでしょうか?」
「もちろん、そう取ってもらいたいね」
ジンが毎日、惜しみなく愛を告げてくれるのはベアトリスにとって本当に嬉しいことだった。
今日どこで何をしていたかが筒抜けなのがたまに疑問ではあるが、超年上旦那様の大きな愛に包まれていると安心できる。
しかし、そんな大好きな旦那様のためにこそ、ベアトリスはサイラスの課題を乗り越えたい。
「魔王様、私は強い王妃になりたいですわ」
「すでに魔国民を論破して、私までも煽るほど我が妻は強いが?」
「魔王様はお優しいですからね」
ベアトリスが顔を上げて隣に立っているジンを見上げると、ジンは柔和な笑みを見せる。安定した優しい笑みには長く生きてきた深みと余裕がある。
「君には魔力がないが、初代魔王様の加護がある」
「サイラス様もそうおっしゃいます。宝の持ち腐れだとも」
サイラスの言葉は端的で的確だ。ベアトリスがしゅんと膝を抱えると、ジンのみぞおちがゾクッとする。笑顔の妻はもちろん、ちょっとしょんぼりな妻も大好物だ。
一体どこが好みではないのかを探求するのがジンの楽しみでもあるのだが、今のところベアトリスの全戦全勝で可愛いところしかない。
ジンはベアトリスが見つめるアイニャの墓をゆっくり指さした。悩める可愛い子にお節介したくなるのも年上の性だ。