可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ジンは同じように生贄姫を愛してしまったものとして、初代魔王様に親近感があった。サイラスの実験結果と共に得た加護に対する推測を語る。
「加護の範囲は、生贄姫の意志で変えることができるんじゃないかな?」
ベアトリスがエリアーナに封印されかけた時。常に半径3mと計測されていた加護が広がりを見せた瞬間があった。サイラスが目撃したのだ。
そこから加護は「生贄姫の意志で操れる」のでは、という推論がサイラスとジンの間でたっていた。
「加護の範囲を変える?」
ジンがベアトリスの手を離す。背の高いジンが五歩歩いて、アイニャの墓の隣に立った。ジンとベアトリスが離れて見つめ合う。
両手を広げたジンは、一人突っ立ったままのベアトリスにニヤリと笑いかけた。
「さあベアトリス、君の愛する私は瀕死の重傷だ。アイニャも襲われている。君はどうする」
「必ず、助けますわ」
「相手は魔狼にパクンもいるよ?」
「愛する貴方たちのためならば、立ち向かいますわ」
「さすがは私の妻だ」
ベアトリスはパクパクされてぎゃあぎゃあ喚いていた。だが、ジンやアイニャの危機だとしたら、そんなもの怖くもなんともない。
ジンは愛するものを守るために立ち向かい、加護を広げてみろと言っている。
それが、サイラスのいう戦闘に繋がるのかはわからないが、ベアトリスは左手にはまった古臭い指輪を見つめた。
加護の広げ方なんてわからない。でも、愛するものを守りたい気持ちは誰より持っている。アイニャのように守れないままはもう、絶対に嫌だ。
守るために、力が欲しい。