可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「もういっぱいまで溜まっているな。生贄姫を人間国に帰すのか?」
「ベアトリスを人間国に帰す気はもう全くないよ。絶対にありえない。死ぬまで私のものだ」
ジンが間髪入れずに首を振って、サイラスに小瓶を渡すように手の平を出した。
「涙の小瓶は割ったと聞いていたが」
「一度は本当に割ったんだよ。だけど幼い妻の涙があまりに美しくて美味しいから、また溜めておきたくなってしまった」
ジンがサイラスから受け取った新しい涙の小瓶を恍惚な瞳で見つめる。
「私の愛の収集品さ」
この涙の小瓶は、ジンが再度用意して涙が溜まるように魔術をかけ直したものだった。
つまり、二代目の涙の小瓶である。
「二つ目の小瓶があるのは、ベアトリスには内緒だよ?」
「気持ち悪い奴だ」
サイラスは先日、エリアーナの涙を溜めておきたいと思ったところだ。だが、ここに先行く奴がいた。気持ちはわかってしまって同族嫌悪だ。
「お前はもう涙を飲んだんだな?」
「そうだね。瓶の半分くらいは飲んだかな。生絞りで」
ジンは涙の小瓶に溜めることなく、ベアトリスがぼろぼろ零した涙を生絞りで舐めとっていた。
「ベアトリスの涙は飲むたびに、身体が新しくなるような感覚がするよ?」
「寿命が延びて良かったな」
「妻の愛だね」