可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「ただの生贄姫の涙だ」
「サイラスは情緒がないよ全く。長く生きるとそうなるから嫌だね」
小瓶一本の涙で、魔王の寿命は50年分は延びるとされている。そのために生贄姫は50年に一度やってくるのだ。
生絞り涙を瓶の半分量ほどすでに飲んだというジンの寿命問題は、今のところすっかり解決されていた。
あとの半分をいつ飲もうかとウキウキしている。
「その瓶に入っている涙は実質、余っているということだな?」
「まあ、今のところ半分は余っていると言えるね。これからもっと溜めようと思っている」
サイラスは生贄姫の涙にふつふつと好奇心が湧いて来た。
生贄姫の涙はすぐに魔王が飲み干してしまうのが通例の超希少品だ。
そのため「余っている」状態など、長く生きているサイラスとて初めて見る状況である。
「それを寄越せ、ジン」
「は?」
いきなり執務机の上に立ちあがったサイラスに見下ろされて、ジンは首を傾げた。
「寄越せ、生贄姫の涙の実態を研究させろ」
「は?!私の収集品だよ?!」
「うるさい、寄越せ」
「はぁあ?!」
その夜ジンとサイラスは、涙の小瓶を巡り、400年ぶりに本気の師弟勝負で夜を明かすこととなった。