可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ジンの冷たい指先がベアトリスの頬を撫でて撫でて、ジンが苦し気に詰まった声で言葉を紡ぐ。
「そんな、二人の魔王様から加護を頂くなんて贅沢ですわ」
「もらって欲しいんだ。私の荒ぶる気を収めると思って」
ベアトリスはジンの大きな想いが嬉しくて、つい頷いてしまう。加護の内容も確認せずに、軽率である。
だが、軽率こそ恋なのだ。
「いただくのは魔王様の愛、と解釈してもよろしいでしょうか」
「愛以外の何物でもない」
「魔王様がくださるものは、全て頂きたいですわ」
ジンは美しく微笑むベアトリスを抱きしめて、何度も金色の波髪を上から下まで撫でた。
愛しいこの存在に、魔王の加護を刻みつけたい。
「ベアトリス、君に魔王の加護として『魔国民への命令権』を譲渡する」
「命令権?」
きょとんと丸くなるクリスタルブルーの瞳が愛らしく、ジンの真っ赤な瞳が喜んだ。
その瞳に映っているのはこの魔王だけ。それがみぞおちを貫く快感だ。
「簡単に言うと、言葉が通じる魔国民を言いなりにできる。一時だけどね」
「も、ものすごい力ですわ」
「現役の魔王だけが使える力だよ」
「しかし、私が使う時はなさそうな気がしますが」
「もらってくれるだけでいい」
戸惑うベアトリスにジンは安心させるように笑いかけた。
ベアトリスはただの人間が初代魔王様の鉄壁の加護と、命令権などという大層なものを両方身に受けるとはどういうことなのか理解が及ばなかった。
だが、それで夫が加護様への嫉妬を収められるなら受け取ろう。
「どうやって受け取ればいいのですか?」
「口づけを」