可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
夜のテラスにてすっかりベアトリスに夢中のジンは、睨む視線に気が付かなかった。ドクロ族の双子が顎をカタカタ鳴らして顔を見合わせる。
「魔王様が生贄姫にキスなんて気持ち悪……オエッ!」
「大丈夫か弟。生贄姫がこのまま王妃になるかもって噂は本当だったのか?」
「人間が?王妃?……オエッ!」
吐き気を催すドクロ弟に、兄は背中を擦ってやる。二人で顔を見合わせて、後ろに立つ男をふり返った。
「「どう思うフェルゼン」」
フェルゼンの大きなギョロ目に縦長の瞳孔がギラリと光る。屈強な身体は戦士のものだが、口が大きく裂け、全身を鱗が覆っているワニ顔だ。
「気持ち悪いよねぇ」
ワニが二足歩行して戦士の鎧をまとっている。
通称、ワニおじさんだ。
「魔族どころか人間。さらに弱い人間が王妃だなんて、許せないねぇ」
「「どうするフェルゼン?!」」
「さらっと死んでもらうのが、いいだろうねぇ」
細長く突き出た顎を鱗で包まれた手で擦って、長く太い尾っぽを引きずったフェルゼンは城の中を歩いて行く。
「生贄姫に悪いことしたらダメって魔王様言ってたよな」
「魔王様の命令に背くなんて……オエッ!」
「生贄姫に直接危害を加えるなんてことはできないねぇ」
魔王からの正式な命令に背くことは、魔王を敬愛するフェルゼンの主義に反する。
だが、魔族崇高主義のフェルゼンは魔王様を敬愛するからこそ許せないことがある。
「大丈夫か弟。しかも加護ってのが強いんだろ?殺すなんてできるのか」
「加護より強いものも、歴史にはあるんだよねぇ」
「「さすが頭いいフェルゼン!」」
裂けた口から鋭い牙を覗かせて笑うワニおじさんに、双子のドクロはカラカラ骨を鳴らした。