可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
サイラスの眉と目がつり上がり、黄緑色の目が充血して痙攣する。いきなり魔王の寝室の扉を吹っ飛ばすイカれっぷりだ。
「エリアーナ様は今日一度もお見かけしていませんわ」
「部屋にも来てないよ。いないのかい?」
「チィイイッ!!」
子どもの顔したサイラスの口から殺意が高過ぎる舌打ちが繰り出される。舌打ちだけで寝室に飾られていた花瓶が割れた。
「夜、僕の部屋に来ると言ったのにもう6時間も来ない。エリアーナは僕との約束だけは忘れたことがない」
「探索魔術は」
「この僕が使っていないとでも思うのか!?」
「そ、そうだね愚問だった」
愚問過ぎた。心臓を握りつぶすほど鋭いサイラスの眼光が飛んだので、ジンはベアトリスをぎゅっと抱きしめた。
賢者サイラス、ガチ怖い。
「ぷるん様、魔王様も包んでくださいませ」
「ぷるん!」
ベアトリスは恐怖からジンもぷるんの身体で包み込んだ。二人で加護様に守ってもらわないと、この狂気の前に立っていられない。
「ツノで聞いてみたけど、魔王城の中にエリアーナの声はないよ」
半壊した寝室のベッドで、ぷるんに加護された魔王夫婦は身を寄せ合う。サイラスの顔の痙攣は止まらず、怒りで魔術を使わなくても壁にボコボコ穴が開く。
「エリアーナには居場所がわかる魔術を何通りもかけてある。だが、全て無効化された。
相手は珍しく知恵も技術もあるらしい」
「相手がいるとは、エリアーナ様は誘拐されたということですか?」
「そうだ。エリアーナが誘拐されたら
……魔国は終わる」