可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

「先生、うちホンマにやってしもた」

「いいんだよエリアーナ。僕が来るまでよく頑張った」

「先生?!」

「サイラス様!」


フェルゼンは忽然と現れたサイラスにギョロ目が取れそうになる。

即、エリアーナの手首に巻かれた魔術具を破壊したサイラスは瞳孔が開いたままだ


「賢者だからって勝手に入っちゃいけないよねぇ?!」

「うるさい。僕の魔術をかいくぐったくらいで調子に乗るな、三下が」


子どもの地を這う声にフェルゼンの背が震えた。サイラスに跳びかかったフェルゼンに向けてパチンと一つ指が鳴ると、フェルゼンはワニらしく鍾乳洞の水の中に念入りに磔にされた。


「ぐぇええ?!」

「「どうなるフェルゼン?!」」



ついでにドクロ双子も水の中に沈んだ。まさしく瞬殺である。あとで事情聴取と拷問があるので殺さず水の中に留めた。カオス復活と共に踏みつぶされたらそれまでだが、もうそれはそれでいい。


サイラスは背に庇ったエリアーナをふり返って優しく笑った。


封印石がバキバキと割れる音が鍾乳洞に響き渡る。



「生きててくれてありがとう、エリアーナ。遅くなってごめん」



サイラスはパチンと指を鳴らし、力が抜けたエリアーナを魔術で浮かせる。エリアーナがサイラスの背中に抱きつき、自身にも浮遊魔術をかけてふよふよ浮きながら移動を開始した。カオス復活の場をすぐに退却する。


愛しい子を抱き上げる腕力がないことだけが悔やまれた。



「先生怖かったよぉお!!」



エリアーナがサイラスの首にぎゅうぎゅう抱きついた。


「僕の言いつけをきちんと守った。エリアーナ偉い」


封印石の崩壊と共に、崩れ行く鍾乳洞をふよふよ浮いて脱出しながらサイラスはエリアーナの耳を撫でた。サイラスはひとまずホッとした。


エリアーナの命がなかったら、カオスより先にこのサイラスが暴れ狂って魔国を破壊するところだった。


(だけど、ここからが大仕事だ)


ふよふよ浮遊して出口を目指すサイラスは、復活してしまったカオスをどうするか頭を働かせた。だが、賢者でありながら妙案は浮かばなかった。

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