可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
魔王城内の魔国民たちに「良い子で待ちなさい!」を命令したベアトリスは、サイラスとエリアーナを従えて、魔王城で一番高い監視塔に立った。
ぷるんの壁の向こうで、淡々と暴れているカオスを三人そろって睨みつける。
カオスは360度角度を変えて、ぷるんのあらゆる場所に噛みついては火の玉三連射を繰り出していた。
火球の燃料が尽きないのもカオスの恐ろしいところだ。体力馬鹿を止める薬はない。
「ぷぎゅー!」
だんだんと疲労が滲んできたぷるんの声に、サイラスが助言する。
「加護様にも限界がある。
加護様は初代魔王様の力の一部だ。力を使い果たせば消滅する」
「消滅、ですか」
ぷるんぷるん奮闘するぷるんが、消えるなんて想像するだけでベアトリスの胸は縮んだ。
「国民を誰も失いたくありません。
だからこそ戦わなくてはいけませんわ」
ベアトリスはすでに食いしばり過ぎて血が滲んでいる唇を、再度噛んで前を向いた。
サイラスは十二分に戦う姿勢ができているベアトリスの強精神には感心してしまう。
(王妃らしい振舞いだ)
「時間との勝負ですね。
ぷるん様が限界を迎える前に、カオスを封印しましょう」
魔王城の一番高い塔に立った三人はカオスの金色の瞳を前にする。
エリアーナはカオスに向かってメンチきって、あーん?とギリギリ牙を剥いていた。怖いもの知らずすごい。
「私はこれから魔王城の加護を解きます」
「はぁ?!そんなんしたら一瞬で魔王城やられてしまうやん!さすがにうちでもわかるで!」
自慢げにエリアーナが言うとサイラスが口を塞いだ。可愛いが、急いでいるので黙ってもらう。