可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
魔国民は強さにきちんと敬意を示す。
彼らの知能は確かに低い。だが、野生型魔族の破壊するだけの醜い強さには共感せず、正しく奮われる力のあり方を見極めることはできる。
ベアトリスは国民を守るという強い意志と、守るための強い力を示した。
たとえ相手が人間でも、彼らは凛とした強さに敬意を返すことができる。
(魔王様、魔国民たちはとてもお優しいのですね)
彼らが持つ優しさと、まっすぐ素直な柔軟さを知って、ベアトリスはジンが魔国民を守りたい気持ちがわかった。
無垢で純粋な彼らは、守るべき愛しい存在だ。
どんなに冷たくされても、嫌われても涙はでないのに。
優しくされると、ベアトリスはあっさり泣いてしまいそうだった。
声が震えてしまう。
「ありがとうございます、皆さん」
「どうして王妃様がありがとうなんだ?」
「ありがとうは僕らだよ?」
羊のツノを持った男の子がきょとんと首を傾げ、大人たちもそろって首をきょとんと傾げた。
「皆様、可愛らしいですわ」
ベアトリスはクスリと笑い、涙を目の奥に留めた。
強い王妃は、国民の前で泣いたりしない。
ベアトリスが使命を胸に、再び立ち上がろうとした時。もう逃げようもなく
目の前に火球が迫っていた。
「ぁあ!逃げて!」
とっさにベアトリスが叫んだが、馬鹿の一つ覚えのくせに!とベアトリスが腹の中で呪っても、
もう遅かった。