可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ベアトリスのクリスタルブルーの瞳から、涙がぼろぼろ噴き出した。ジンはベアトリスの後頭部に手を回して、その涙を全て舐めとる。
「私だけの泣き顔だ。誰にも見せないでくれ」
「魔王様……!!」
ジンが大切に頭を抱いてくれて、顔に舌が添う。生温かくザラついた舌の感触にベアトリスは陶酔した。
ジンの胸に顔を埋め、背に手を回してマントを握りしめる。
愛した人がここにいると、全身で抱きしめる。
ジンの胸に顔を埋めて息をして、ベアトリスは今までどんなに心細かったかが身に染みた。涙はとめどなかった。ジンは涙の全てを執拗に舐め取った。ベアトリスがやっと小さな声を出した。
「魔王様、亡くなったはずでは」
「私も死んだと思ったけどね。君のおかげで、ギリギリ生きたよ」
「私のおかげ?」
愛しそうに真っ赤な瞳を細めたジンが、ベアトリスの涙が流れる頬を何度も舐めまわす。ベアトリスはジンに縋りついてもっと泣きたかったが、ジンが立ち上がった。
ジンが差し出した冷たい手に、ベアトリスは手を重ねて立ち上がる。
「ギエェエエエ!!」
ジンがなぜ生きたのか、理由も聞きたかったがそんな時間はなさそうだ。そう、地獄の真っただ中だ。
「ベアトリス、よく頑張ってくれた。ここから全盛期の私を見ててくれ」
ぷるんの加護から解き放たれたカオスの叫び声が響き渡る。破れた服からちらちら肌を覗かせるジンが、マントを靡かせてまたコウモリ羽で浮き上がった。
「帰ったら、今度はもっとたくさんキスをするからね?」
ニタリと笑ったジンはまたも戦地へ赴いた。あっという間にまた行ってしまった夫に、ベアトリスは首を傾げた。
「全盛期?」
ジンの全盛期は50歳ごろだと聞いている。ジンは現在500歳であり、全盛期には程遠い。だから一度負けたはずだが。