可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
牡牛のツノを確認したエリアーナが叫ぶ。
サイラスはちらりと視線を向けるだけで詠唱を継続した。今、死人が帰ってきたとしても手も口も離せないくらいに忙しい。
「おかえりもないのか、サイラス」
下半身が魔術陣に沈んでいるカオスに向かって、ジンの右手が攻撃魔術を放つ。右手は重症の火傷を負い蒸気が上がっていた。
そんな右手から放たれたあり得ない熱量を纏った魔力の塊がカオスの目を抉った。
「ギュガァアアア!!」
カオスに初めての有効打だ。
痛みに狂うカオスの頭の上に着地したジンにエリアーナが叫んだ。
「魔王様つっよ!生きてたんや!魔王様!!よかったぁあ!!」
「ギリギリだったけどね。さて状況は?」
ジンは足の下で怒り狂うカオスに魔力の塊をぶつけ続けた。魔術陣に引きずり込まれて自由がないカオスに対してジンはかなり有利を取れる。カオスの両瞳が潰れた。
だが最硬度の宝石よりも硬いと言われる鱗にはダメージが入らない。鱗への攻撃が通るのは竜剣だけだ。
サイラスがエリアーナに目配せすると、エリアーナなりに状況を説明する。
「封印詠唱が105番までしかでけへん!魔王様なら108番いけるんちゃう?!」
これがサイラスが待っていた奇跡か!と期待したエリアーナだが、
ジンは首を振った。
「ギュエェエ!」
「私の封印術は嗜み程度だ。100番までしか行けない」
「ちょおお!!魔王様ほんまに言うてんの?!」