可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
詠唱が進むにつれて、カオスの身体は徐々に魔術陣の中に引きずり込まれていく。
魔術陣に脇まで沈んできたカオスは身体をくねらせ、照準を定めることなく盲目火球を撃ちまくる。ジンは火球をいなし続けるが、両手はすでに壊死して感覚もない。
この火球から魔王城を守るために労力を持っていかれ、竜剣に魔力を割けない。
「サイラス、首を狩れるほど竜剣に魔力を纏わせるのにどうしても時間がいる」
「ギュガァアアア!!」
カオスは、もはや一時も休まない。ここが勝負所とお互い心得ていた。
「完了だ」
両手を合わせてパチンと鳴らしたサイラスがやっと口を開く。105番詠唱が完了した。カオスの回り360度を七色の光が包み込む。ぷるんと同じ、全方位の障壁に閉じ込めた。
「105番詠唱の全方位障壁に、カオスを捕えておけるのは1分」
カオスを障壁に任せ、やっと地上に降りたジンは膝をついて竜剣を抜いた。竜剣に焼け爛れ黒焦げた手の平を添えて魔力を込め始める。
「竜剣の準備は2分だよ」
「105番詠唱の効果が切れた後の1分間。僕が自由になったカオスを捕まえて城も守る。大役だ」
「お前にしかできない」
「知っている」
サイラスは事の大きさに息をついて身を整える。
「お前こそ一度負けたのに勝てるのか」
「今の私は、全盛期だからね」
サイラスはジンのハッタリに大きく笑ってふわりと浮き上がった。
「カオスの首を狩るなんて、魔王にしかできない」
「知っている」