可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─


「歴代の生贄姫は骸骨か、蛙か、豚かという顔をしていた。

だがベアトリスは髪も目も顔も身体も美しい」


サイラスは両腕に出現した鳥肌を両手で擦って、なんとか収めようとするがサブイボが立ち続けた。


「ジン、お前は人間の容姿の見分けがつくのか?」

「サイラスは見分けがつかないのかい?ベアトリスは歴代圧倒的に可愛いだろう?」

「は?」

「は?」


ジンとサイラスは顔を見合わせて、お互いに首を傾げ合う。見解が食い違った魔族の会話はだいたい「は?」の応酬で終わりを告げる。


知能の低いもの同士であれば、取っ組み合いが始まるところだ。


魔族の美意識、恋愛的年齢観念、好み、目に映る情報、全てが個々人で違う。魔族同士であっても共通見解を得ることがなかなかに難しい。


人間国にまかり通る「常識」という概念そのものが魔国にはない。

全員に通じる美人の常識、結婚の常識、恋の常識、何もないのだ。


魔族は超個人主義。なにもかもが超個人的見解である。

そんな個人主義の集まりである魔族の中の唯一のルールは「強者に従う」だけだ。


「私も、妻を泣かせにいってみようかな」


ジンがクスリと目を細める。ジンの厭らしい顔を横目に見たサイラスは生贄姫はすぐ泣くなと確信した。
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