可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
カオス討伐の死闘を生き残ったサイラスが中庭に現れた。
珍妙な顔をしたベアトリスの隣でぐったりしているエリアーナを見つけたサイラスが駆け寄る。
「……僕の医術ではどうにもできない」
サイラスが膝から崩れ落ちてエリアーナの焼け爛れた肌に触れた。黄緑色の目がエリアーナの全身を奔り、すぐに存命が難しいと判断が下ってしまう。まともな知識がある分、サイラスの判断は早い。
サイラスの黄緑色の目に涙が浮かび始めたのを確認したベアトリスは、サイラスを大声で叱咤した。
「サイラス様!まだあきらめないでください!エリアーナ様を救う方法がありますわ!」
ぷるんを目蓋に貼り付けて、目を限界まで見開いて充血しているベアトリスの顔は愚の骨頂だった。充血まんまる瞳にぎょろっと睨まれてサイラスは激しく瞬きした。
「この状態で何ができると」
「涙ですわ!生贄姫の涙には治癒の力があるのです!
寿命が延びるのかはよくわかりませんが、とにかく傷が癒えます!サイラス様、もっと私を泣かせてください!
さあ私を痛めつけてください!」
ものすごくいかがわしい注文がついて、サイラスは呆気に取られた。