可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─

どうやって痛めつけるべきか考え始めたサイラスの後ろから、カオスの後始末を終えたジンが現れた。


エリアーナの惨い姿に眉をしかめて沈痛な顔をする。ジンはサイラスの肩にトンと真っ黒に焦げた手を置いた。



「サイラス、私が生き残ったのもベアトリスの涙のおかげだ。

ベアトリスの言うことには信憑性がある。やれることをやろう」



ジンが幼な妻に歩みより、強烈なギョロ目姿をのぞき込む。珍妙な顔ではあったが必死にがんばっていてとても可愛い。もはや生きているだけで清い。



「ベアトリス、君を泣かせる役目は私に任せてくれ。泣かせていいのは私だけだ」

「お願いします!魔王様!私をどんどん泣かせてください!」

「今は緊急事態だ。痛みを伴っても?」

「いいですわ!痛くて涙が止まらないようにしてください!こんな生温いやり方では涙の量が圧倒的に足りませんわ!」



ぷるん協力の元、必死に充血ギョロ目を続けるベアトリスに、ジンも頷く。本気だ。


拷問で涙が止まらないようにする手などいくらでもある。可愛いベアトリスにそんなことしたいと微塵も思わなかったが、今は仕方ない。そう、仕方ない。


ジンが身体に傷が残らないように、爪と皮膚の間に針を突き刺す案を採用しようとしたとき、サイラスが立ち上がった。



「ジンから奪った涙の小瓶がある!」



サイラスが指をパチンと鳴らし、消えたかと思うとまた姿が現れた。その手にはいつか見た涙の小瓶が握られていた。

< 214 / 232 >

この作品をシェア

pagetop