可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
サイラスが研究目的で、ジンと血みどろの争いをして手に入れた、生贄姫の涙だった。
ギョロ目のベアトリスはなぜ割れたはずの涙の小瓶があるのか不思議に思ったが、今はそんな場合ではない。
その小瓶の中には半分も涙が溜まっていた。
サイラスがすぐにエリアーナの一番火傷が深い部分に重点的に涙を垂らして、薄く全体にも伸ばす。
「本当に効くんだろうな」
サイラスが不審な声を出す。涙は患部に染み込んだはずだが、劇的に変化を起こす様子はない。充血ギョロ目のベアトリスは自信を持って頷く。
「癒しの発動まで時差があるのですわ。おそらく魔王様もそうだったのではないかしら?」
ジンがベアトリスの目蓋を固定し続けていたぷるんを引きはがして普段の可愛い顔に戻す。ジンは頷いた。
「正解だよ。カオスにやられて、ベアトリスに泣きつかれたところまで記憶がある。次にベッドの上で目覚めたときは傷が癒えていた」
ジンはベアトリスの肩を優しく抱きよせるが、ベアトリスはエリアーナの傷口に釘付けだった。
「癒えた場所が温かくてね。すぐにベアトリスのおかげだとわかったよ」
二人の情報を掛け合わせて、サイラスの中でも理論が構築できた。
「そうか。細胞が……」
魔王の寿命を延ばす、生贄姫の涙。
魔王の寿命を延ばすとは、老いた細胞を元気な状態に戻すという意味だったのだ。
生贄姫の涙には、細胞を元気な状態に戻す効能がある。
ならば外傷に直接塗り込めば、傷ついた細胞が元に戻る。
つまり、傷が治っても不思議ではなかった。
サイラスは徐々に火傷が癒え始めたエリアーナに呼びかける。
「起きて、エリアーナ。結婚するよ」
サイラスの大胆な呼びかけに、ベアトリスとジンは顔を見合わせた。