可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
ジンが身体を跳び起こして小さいサイラスを腰を折ってのぞき込む。ジンの目が激しく白黒した。
「いやいやいやいや、付き合って10年でまだ早いみたいな本書いてた作者だよね?!」
「僕とエリアーナは出会って関係を深めて50年だぞ?忘れたのか?」
「両想いになってから10年みたいな本だったよね?!」
「魔族の恋愛に常識などない。超個人的解釈にのっとっている。しかもあの本はエリアーナから男を遠ざけるための洗脳本だ」
「牽制のやり方がドギツイよ賢者」
「でもまあ僕はお前よりは遥かに気が長く紳士だった自信はあるな。
50年、彼女の側で、彼女を育てて耐えてきた」
「ぐっ……」
サイラスは分けた書類を執務机にどんと置いて、魔王の執務椅子を乗っ取って座った。子どもの短い足を偉そうに組んでニヤリと笑う。
「どうして今さらそんなに盛っている?心当たりがあるのか?」
「そんな顔して、心当たりに気が付いているんだろう?」
「賢者だからな」
「このスケベ賢者」
ふふんと笑うサイラスがパチンと指を鳴らすと、コップに入った生き血ジュースが現れる。ジンの手にも現れたので、ジンはしぶしぶそこらへんの椅子に座った。賢者の方が偉そうな椅子に座っている。
「生贄姫の涙のせいか?」
「ご名答だよ、さすがド変態賢者」