可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「今まで抱きたい相手がいなかったからね。この衝動を抑えるのがこんなに苦しいなんて知らなかった」
「長く生きても知らないことはいくらでもある。己の無知を知りて一歩目だ」
毎日可愛い幼な妻が無防備に体をくっつけてきて、全盛期ギンギンのジンは妻を抱きたくて堪らなかった。
サイラスが生き血ジュースを飲み干して立ち上がる。
「抱かないと豪語していた夫がいきなり豹変して襲い掛かったら、王妃にはさぞ引かれるだろうな」
「うるさい!」
ハハハと盛大に笑ったサイラスに向けて、ジンは空っぽのコップを投げつけた。コップに当たるわけがないサイラスがにやつく。
「しかし、こちらとしては王妃が泣くと涙が増えて助かる。
王妃の涙の治癒力で、救える命も増えるからな」
涙の小瓶はジンの収集品ではなく、医師としても活動するサイラス預かりとなっていた。涙の小瓶を胸ポケットから取り出したサイラスが、中に溜まった涙を揺らす。
「王妃を泣かせていいのは、お前だけだったな?がんばって泣かせ続けてくれ」
王妃が泣いて涙が溜まるほど、国民のためになるのだ。