可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
アイニャはこの水浴びの場所を知っているので、追いかけてくれたのかと満面の笑みで声のした方を振り返る。
「私は呼ばれただけだがにゃ」
湖の傍らに座っていたのは、アイニャではなく月下に照らされた魔王様だった。艶やかな黒髪と真っ赤な瞳の美しさを魅せつけていた。
膝に肘をついて顎を乗せ、真顔でにゃん語を繰り出して来る。お茶目なのか魔王様。
「え?え?!魔王様?!」
「良い眺めだけど、そのままでいいのかい?」
「キャア!」
ベアトリスは露わになっていた胸を慌てて両手で覆って、水に身体をつけて隠した。まさかこんなところでジンに会うなんて思いもよらなかった。
しかもベアトリスは裸だ。顔が熱くなり、目がチカチカするほどに混乱した。
「ニャ」
再度アイニャの声がして、鼻の下まで水に浸かったベアトリスがジンの方を伺う。
するとアイニャはジンの膝の上に乗って喉をごろごろしてもらっていた。
(何してるのアイニャ!もし殺されたりしたら!)
ベアトリスはさっと血の気が引いた。ベアトリスがアイニャを肩から下げた袋に入れて大事に連れ歩いているのは魔王城の誰もが知っている。
アイニャはベアトリスの弱点なのだ。