可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─


ベアトリスは自分に言い聞かせ、一度深く息をついてから、ザバッと豪快に水音を立てて湖の中に立ち上がった。


もう上半身も隠さずに堂々と裸体を晒して、ジンに一歩一歩近づいていく。


ジンの尖った耳がピクピクと反応する。真っ赤な瞳がぱちくりして、ベアトリスの月夜に輝く美しい肢体に魅入った。


ベアトリスが湖から上がると、アイニャがジンの膝の上から飛び降りた。アイニャが身体を拭く布を咥えて、ベアトリスの元へと持ってくる。


「アイニャ、ありがとう」


ベアトリスは布を纏い、屈んでアイニャを慈しみを込めて撫でた。


「君の絶対泣かない覚悟は、見事だね」


立ち上がり、黒いマントを無造作に脱いだジンは、屈んだベアトリスにマントをバサッと被せた。


ベアトリスはジンの意外な行動にクリスタルブルーの瞳をしぱたいて、ジンを見上げる。


「美しい覚悟と身体に見惚れてしまったよ」

「意地悪な魔王様に、負けたくありませんでした」

「ハハッ、今日負けたのは私のようだね」


ベアトリスは立ち上がって、身体中を覆える大きな黒いマントを体に巻き付けた。マントに残ったジンの微かな体温が身体に伝わってくるようだった。


「本当に、君は泣かないんだな」


ジンの前に立ったベアトリスは背筋をまっすぐに伸ばし、凛とした声を届けた。

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