可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
「アイニャ、私、魔王様と仲良くなれるかにゃ?」
「ニャ」
すでに魔族であるうさ耳メイドとの円滑な交流を果たしているアイニャは元気に返事をした。ベアトリスは愛らしい黒猫アイニャの頬に頬をすり寄せて笑った。
餓死することも、暴力を振るわれることもなく、アイニャと二人きりのこの場所は、確かに悪くはない。
だが、こんな薄暗い狭い部屋で一生過ごすより、もうちょっと背伸びして楽しい未来をつかもうとする道だってある。
昨夜のジンの優しさは、そんな微かな希望を与えてくれた。
彼は人間を完全に拒否していない。
ベアトリスはおじい様が亡くなってから、誰からも愛されず、ずっと一人で強く生きてきた。
でも、もしもこれから先、誰かと寄り添えることがあったなら。
おじい様と過ごしたような、誰かと過ごす温かい時間を得られたなら。
それは祖父の望んだ、
ベアトリスの幸せではないか。
ベアトリスは立ち上がり、さらに高くアイニャを持ち上げた。ベアトリスの首元で、おじい様の形見である金のロッドが跳ねた。
「アイニャ、私、魔王様と仲良くなれるように努力してみるわ!」
「ニャ!」
ベアトリスは泣かない幼な妻として、もう少しジンと距離を縮めてみることにした。