可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
エリアーナのうさ耳がピンッと立ち上がって、両手をパンと叩くと、ベアトリスの背後の扉がいきなり閉まった。
「アーッハハ!!うちの完璧な演技に騙されたなぁアホ人間!」
(全然騙されてはいませんけどね!)
「詠唱開始やで?」
ベアトリスは背後のドアを押したがビクともしない。扉が閉まってホール内は真っ暗になってしまった。
まさに漆黒で前後左右が曖昧になっていく。
(これは何?ただ暗いだけではないの?!)
ベアトリスはガンガン扉を叩いたはずだった。なのになぜか今まで叩いていた扉の感触がなくなってしまう。
エリアーナの口から聞いたことのない呪文が繰り出される。
ベアトリスは自分の手がどこにあるのか、足が地面を踏んでいるか、自分はここに存在しているのかが曖昧になってしまうほどの漆黒に包まれていった。
「初代魔王様!助けて!加護はどうなっているのですか?!」
ベアトリスは声を発しているはずなのに自分の声が耳に響いてこない。声は反響する壁があってこそ聞こえるのだ。
扉が、壁が全てが闇に消えた。
ベアトリスは手にも足にも何の感触もなく、己の声も聞こえない闇に突き落とされてしまった。
「なんですのこれ!アイニャ助けて!」
必死に助けを求める声も、口から出ているのか出ていないのか定かでない。ベアトリスは暗闇の中に自分が存在しているのかわからない恐怖に包まれた。