可愛くて、ごめんあそばせ?─離婚予定の生贄姫は冷酷魔王様から溺愛を勝ち取ってしまいましたわ!─
(時間の経過がわからない。私はお腹が空かないからここでは死ねないのかもしれない)
いつまでこの闇にい続けなければいけないのかとの推測が、ベアトリスを苦しめる。
(一生このままだなんてことになったら、死ねるのかしら。生き地獄だわ)
ベアトリスを慈しんでくれるのはアイニャだけだ。だが、ただの黒猫であるアイニャがこの苦境を救うことはできないだろう。
ベアトリスの脳裏に一人だけ、助けてくれるかもしれない人物が浮かんだ。
(魔王様は……私のことを助けてはくださらないわよね)
魔国に来て、ただ一人だけ、ジンだけが優しさを見せてくれた。もう少し仲良くなれたら、なんて淡い希望を持ってもみた。
だが、話す機会すら見つけられなかった。
闇で孤独のまま死ぬよりも、ジンとの距離が少しも縮まらなかったことに悔いが残った。
(おじい様が死んでからただ一人だけ、
近づいてみたいと思った方だったのに)
ベアトリスは闇の中で苦笑した。涙は出なかった。
泣いても悪い状況が何も変わらないことだけは、経験上よく知っていたからだ。祖父が死んでからずっと涙なんて捨てて来た。
ベアトリスは、絶対に泣かない。
それがベアトリスの培ってきた強さだ。
(もしこの闇を抜けることができたら、魔王様にもう一度お会いしたいわ)
ベアトリスがそう強く願ったとき、急に視界が開けた。